亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
「―――待つとか、二人とも、らしくない」
どんよりとした溜め息混じりの空気が漂う中。
ひっそりと囲む焚き火が、渇を入れるかの様にパキッと甲高い音色を響かせた直後。
…まるで箇条書きの様な、独特の話し方をする少女の聞き慣れた声が背後から飛んできた。
反射的に、オルディオ以外の三人は揃って振り返る。
「よお、リディア。久し振りだな、ちゃんと毎日飯を食ってるか?」
親しげにロキが声をかければ、奥の暗がりから気配を消して現れたリディアは、ちらりと視線を合わせただけで無愛想に顔を背けた。
洗い物でもしてきたかの様に、濡れた両手を丹念に拭き取っている。
「…ライが拾ってきた、女の子。…洗って、服着せた」
情報交換をしている間、始終リディアは黒髪の少女の世話をみてくれていたのだが、どうやらある程度身なりを整え終えたらしい。
それはよかった、とライが安堵するのも束の間……瞬間、相変わらず冷たいレヴィの声がその場に響き渡る。
「…こっちに連れてこい。………色々と、聞きたい事がある」
慈悲の欠片も感じ取れないレヴィの声に、ライは先程彼と話していた、少女の処置についてを思い返していた。
…確かに、少女に怪しい点はあるかもしれない。
もし何も無かったら…?それはそれでレヴィからすれば終わりなのかもしれないが…自分が連れてきてしまったがために少女が辛い思いをするのだと思うと…ライはやりきれなかった。
レヴィの指示を受け、すぐさま踵を返すリディア。だがしかし…一瞬不意に立ち止まった彼女は、ポツリと一言呟いたのを全員が聞き逃さなかった。
「……………そうしたいのは山々、だけど…」
(………?)
意味深な言葉を残して暗がりに溶け込んでいったリディアに、ライは首を傾げる。
…よく分からないが、とにかく会わないことには何も始まらない。
リディアと少女の到来を迎えるべく、しばしその足音に耳を澄ませていれば……しばらくして聞こえてきたのは二つの人間の不揃いな足音……と、言うよりも…。
…一人の足音と、一人が半ば引きずられる様な音が、近付いてきた。