亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
何となく想像がつく。
もしかすると、少女は上手く歩けない状態なのではないか。
そう言えばここに連れてきた当初も、リディアが少女を背負って連れて行っていたではないか。
手を貸そう、とライは慌てて立ち上がり、次第に近付いてくる二人の気配に向かって駆け寄った。
焚き火の明かりを背に受けて近寄ったライの視界の中央に、ぼんやりと人影が浮き出る。
その内の一方の明るい髪色のシルエットはリディアだと直ぐに分かったが、彼女が肩を貸してゆっくりと歩かせている人影は…あまりにも漆黒の闇と溶け込んでいてよく見えないが…揺れる長い黒髪から、突き刺す様な視線をライはその身に感じた。
「ライ、手、貸して。…この子…ちょっと…」
少女の様子を見ながら何かを言いたげにもごもごと口を動かすリディア。 不思議に思いながらも目の前にまで歩み寄り、少女に手を伸ばそうとしたライだったが。
それまで俯いていた少女がゆっくりと頭をもたげ、お互いに面を合わせた瞬間……思わず、ライの手は行き先を失ったかの様にピタリと止まってしまった。
少女の闇よりも濃い瞳を見れば、誰だって一度はその漆黒が惹き付ける不思議な力に釘付けになるだろう。
そんな少女の瞳を見るのは何度目になるのか分からないライも、今この時も勿論思わず手を止めてしまったのだが。
硬直してしまった大元の理由は、そこではない。
きっと誰しも、一度は体験したことがあるだろう、当然の反応だ。
…誰だってそうに違いない。
目にすれば、反射的に固まってしまうだろう。
同じ人間とは思えない程に…こんなに…。
(………う…ぁ…)
…こんなに、綺麗な人を前にすれば。
こちらを見上げてくる頭一つ分背丈の小さい少女は、それはそれはもう…精巧な人形の如き整った顔立ちの、美しいと言うよりも可愛らしい容姿をしていたのだ。
リディアから借りているのだろう、身に纏った衣服は少々背丈に合わず大きめらしく、袖や裾が余っている。