亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
そう言って無理矢理短剣を下げさせれば、当たり前だがレヴィはあからさまに顔をしかめた。
突きつけられる冷たい睨みに対し、リディアは全く動じない。
むしろ目つきの悪い者同士のこの睨み合いは、傍から見ればほぼ互角に思えた。
「……変だか何だかは知らないが………いい度胸だな、リディア…」
「話、きちんと聞いて。……その子、何言っても、駄目だから」
きっぱりとそう断言するリディアだが、意味が分からない。
ライは瞬きを繰り返しながらロキを見やるが、彼もお手上げとばかりに肩を竦めて見せた。
それは勿論、レヴィも同様。
何だそれはと眉間にしわを寄せるレヴィは、短剣を腰のベルトにしまい込みながら再度口を開いた。
「…駄目って…それはどういう…」
「あー」
…刹那。
その場の空気が一瞬ピタリと止まったのと、レヴィが思わず言葉を呑み込んだのは、ほぼ同時だった。
緊張の糸が張り詰めていたこの場の雰囲気をぶち壊すには、充分な破壊力を持つ…何とも能天気で力の抜ける声は、何の前触れも無く響き渡った。
その場にいるオルディオ以外の全員が…ぎこちない動きで声の主に振り返る。
幾つもの視線が集中する、普通ならば居心地悪く思える中で………首を傾げる黒髪の少女は、小さく口を開いた。
「…うー。あーう………なー」
すぐ目下を素通りしていたティーラの子猫が、仲間の鳴き声と聞き間違えたのかもしれない。
少女の奇妙な声を耳にしてキョロキョロと辺りを見回すと、応える様にニャーと一度鳴いていた。