亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
「…ますます怪しくなったな。あんな小娘じゃあ…奴隷として働くのは到底無理だ。……やはり、何かあるな…」
レヴィの中で、余計に少女への疑いが深まってしまったらしいが…あれではとてもじゃないが尋問は無理だ。
しかし、奴隷として売買されるために運ばれていた訳ではないとなると…ではあの少女は一体何者なのか。
一般人とも思えないが…敵方の人間…とも考えにくい。
近頃、国側のスパイの存在が怪しまれているが…あの少女はそういった類ではないだろう。
演技にも思えない。
「…例えだけど。あの子が何か知っていて、バリアンがそれを隠すために、あの子に何かした、とか…」
「…口止めだったら、殺した方が早いだろう。…それとも、あの娘を殺せない理由でもあるのか?」
「記憶を、弄ったとか…?……記憶喪失、なんでしょうか…あの子…」
ひそひそと少女の謎について議論するが、これといった答えは見付からない。
少女に関する情報が少なすぎるのだ。少女自身も話す事が出来ないとなると、この議題の先は詰まるしかない。
ライは困り顔で不意に少女に視線を移せば、いつからこちらを見ていたのだろうか……不思議な魅力を秘める少女の黒い眼差しが、しっかりとライ独りを捉えていて…ライはびくりと身体を震わせた。
ただでさえ視線を外せない眼差しだというのに、それがとても綺麗な少女なのだ。
狼狽する半面、違う意味でドキドキと心臓が高鳴るのは気のせいだと思いたい。
「お、まただ。ライに熱視線~」
「おちょくるの、そんなに楽しいですか黒槍」
「楽しい」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを向けてくるロキを無視し、ライは論議に集中する。
「記憶喪失……にしては、あれは少し重度じゃないか?」
「でも、聞いたことがある。記憶喪失には幾つか種類がある。記憶の一部を忘れてしまうものと……日常生活に欠かせない知識や常識自体を丸々忘れてしまう、重度の記憶喪失…」
物の使い方、意味など、根本的な事から忘れてしまう記憶喪失は、一際重度の障害だ。