亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
少女がその記憶喪失なのかは全く分からないが…少女の状態や何らかの理由でバリアンの荷車で運ばれていた今までの経緯から…少女が何かされたのだと考えた方がまだ納得出来る。

敵側の人間…ではないと判断するには、まだ早いが。




「記憶喪失は強いショックで引き起こされるとも聞きますしね。……もしかしたら、何かのきっかけで思い出すかもしれませんよ。時間の経過とかでも…」

「なら、お前が面倒みろ。拾い主だしな」

「………はい?」



突拍子も無く告げられたレヴィの命令口調…否、断言された命令に、ライは豆鉄砲を食らった鳩の様な顔でピシリと固まった。

それはあまりにも唐突で、それでいて内容が内容なだけにライの顔色は見る見る内に青ざめていった。


何だって?…面倒?………面、胴?……麺道?


グルグルグチャグチャと回って回って混雑しあう思考回路をどうにかフル回転させ、ライは引きつった笑みを浮かべた。

「………あの…確かに、あの子を拾って…きたのは…僕、です、けれ、ど………………………………あの子人間!女の子!」

「何だ急にリディアみたいな話し方になって。……だからどうした。責任もって面倒をみるのが拾い主の仕事だろう?」

「責任は感じてます!でも…でもですよ!……………リ、リディア…!」

「やだ。お断り。あたし、オルディオのお世話で手一杯」

同性ならまだしも…年頃の女の子の世話など…如何なものだろうか。
唯一頼りになるリディアも、やなこったと言わんばかりに顔を背ける。


…ライは、絶望的だった。



「…寝食はこの隠れ家でいい。……風呂とか、どうしても出来ない事だけはやってあげる。けど、それ以外の世話はライ」

「…え……ええええぇ…?」

冗談だよハハハと笑って軽く肩を小突いてほしいが、レヴィやリディアがそんな真似をする人間でないことなど百も承知だ。

ああ、これは本気で現実で悪い夢ではなくて…ああ、やはり夢ではないらしい。抓った頬が地味に痛い。



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