亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
ロキに関しては先程から腹を抱えて笑いっぱなしで役に立たないの一言に尽きるし、我らが老長オルディオも一向に口を閉ざしたまま、瞑想に耽りっきりで……あれ、もしかして寝てる?


「……何でもいい。あの娘が何か思い出したら、逐一報告しろ。…それとだ」

どんよりと暗雲を背負って俯いていたライに、レヴィは近寄り…ポツリと、低い声音で耳打ちした。





「………妙な真似をしたら、聞き出せる事は可能な限り聞き出して………殺せ。いいな」

「………」


…そう言って何事も無かったかの様に離れるレヴィを一瞥し、ライは複雑な表情で少女に目を向けた。

小さな子猫と向き合い、夢中でニャーニャーと言い続ける少女。

子猫の方も、少女に警戒一つ向けていない。




この少女が本当に、何か大事な記憶を秘めているのだろうか。


(………)



そう、出来れば………そうではなくて、ほしい。そんな本音など、今の自分の居場所には必要無いのだけれど。









「この子の名前、どうするの。呼ぶ時、不便」

少女の向かいにしゃがみこみ、リディアは観察しながらそう呟いた。
記憶喪失で何も覚えていないのならば、当然今の少女には名前というものが無い。
…これから世話をするのだ。少女には悪いが、こちらで勝手に名前を付けさせてもらうしかない。
「黒いから、クロ」

「そんな安易な…もっと可愛い名前を付けてやれよリディア…」

「白いから、シロ」

「なぁ、俺の話聞いてた?」


彼女の口から淡々と上げられる候補はあまりにもストレートで、言っちゃ悪いがネーミングセンスは欠片程も無い。
…多分こいつも同様の返答なのだろうなと内心で溜め息を吐きつつ、駄目元で話をレヴィに振ってみれば…。

「…名前?……………………………ジュリアナメルスニマリカローレンスとかはどうだ?大昔の人形士が作った作品の一つの名前だ。本の挿し絵で見たことがあるが、それはもう精巧な造りだったらしく、特に繊細なレースの細かさと刺繍のデザインが半端無いもので………………何だお前ら、その顔は」





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