亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

単純過ぎか、凝りすぎか。
とにかく極論しか出ない候補の名前を全て切り捨て、結局名付け役はライに一任されてしまった。

約二名の愚痴を耳にしながらしばしの考慮の末……ライは、よし決めたと手を叩いた。

「決めました。……“サナ”…とかはどうでしょうか?」

「…サナ?」

首を傾げるロキに、ライは頷いた。

「ええ。多分ご存知無いでしょうけど……バリアンの砂漠には、昔から女性の姿の精霊がいると言い伝えられているんです。……その精霊が、サナ。…砂漠の真ん中で見つけたから、何となく…」


姿といい、場所といい、昔御伽噺で聞いた精霊のサナが、ライの頭の中で少女と重なったのだ。
それにもしサナという精霊が本当にいたとするならば、この少女の様な美しい容姿に違いない。


軽い気持ちで決めたその名前に、ロキは賛成してくれるらしい。
リディアも短いから覚えやすいという理由で了承してくれた。

……レヴィだけが、「続けてフランソワーズを付けた方が…」と妙なこだわりを押し付けてきたが、結局、少女の名前はサナに決まった。


当の少女こと、サナは、決められた名前で何度も呼び掛けられ、最初の内は瞬きを繰り返していたが……それが自分の事かと理解したのかは知らないが、呼べば首を傾げてこちらを見てくれる様にはなった。

それだけでも、大きな進歩である。










時刻は真夜中。
すっかり夜も更けた、静寂漂う地上の下。

まだまだ集会を続ける面々から離れた隅の方で、サナは膝の上でいつの間にか眠っていたティーラの子猫をぼんやりと眺めた後………焚き火を囲むシルエットの内の、ライの背中を…暗がりの中からじっと、凝視し始めた。



なかなか瞬きをしない垂れ目の大きな瞳は、青年の背中を飽きもせずに映し続ける。

ただひたすら、その底なし沼の如き真っ黒な瞳で。









「……………あー…」


開けっ放しの小さな口から、意味の無い声が漏れる。
しかしそれはあまりにもか細すぎて、誰の耳にも届かずに、消えた。









ただただ、サナは青年を見詰めていた。

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