亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~














「それで…?…それはいつだ」






静まり返った空間で、白槍の…レヴィの一際低い声が響き渡る。


すっかり鎮火した焚き火を挟んだ向かい側で頬杖を突いたまま、黒槍のロキはゆっくりと口を開いた。




「正確な日時は分からない。…と言うよりも、あちらさんとしてもまだ決めかねているらしい。………まぁ、その日が近くなれば……外の白い“壁”で分かるさ」

「…今回は、規模がでかい。なにせ…」


手元でクルクルと回していたナイフを、ロキは地面に勢いよく突き刺した。

彼等の足元の地面には、うっすらと三大陸の地形が描かれている。
鋭いナイフの刃が食い込んでいるのは、世界のど真ん中。

大陸が囲む、地図では何もかかれていない空白の箇所。








「……協定とやらを結ぶための、談合だからな」

「………今回は、三国揃うのか?」

「さぁな。…今までに二回談合があったらしいが…そのどっちも揃わずに談合は未遂に終わっちまっているが………三度目の正直、といくのかどうか。注目は…不参加続きのバリアンが今回でどう動くか、だな」

「それによっては………状況は傾くぞ。………どう思う、リディア?」








二人揃って視線を移した先には、暗がりの中で佇む少女…リディアの姿が一つ。
レヴィの問いに対し、彼女は口を開こうとしない。
だが代わりに二人の傍に音も無く歩み寄ると…片時も離さず持ち歩いている小石を、おもむろに地面にばらまいた。

傷一つ無い綺麗な彼女の指先を伝って、異なる色を帯びたそれらはフワリと一瞬宙を漂い、弧を描きながら重力に従って地に落ちた。


何度か軽く地を跳ね、小石は己の行くべき箇所で静かに足を止める。
小さな石のほとんどは無造作に辺りに散らばったが……色のついた三つの小石だけは、描かれた三つの大陸の上に落ちていた。


一見、ただ散らばった様にしか見えない石の群れを、リディアは真剣な表情でじっと見下ろす。
レヴィとロキには見えない何かが、彼女だけには見えているのだ。

リディアの石を用いた占術は、少し先の未来を見通す事が出来る。
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