亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~



「…先程、使いとして送った片方の特務師団から一報が届いたので、御報告申し上げます。…昨日、バリアンに赴き予定通り無事に入城を許されたとのことですが、バリアン王への謁見は許されず。王の代役として出て来た銀縁眼鏡、もとい側近の野郎がこちらの書状を受け取ってはくれたものの、バリアン王に直ぐに目を通して頂ける訳では無かった様で…肝心の例の件の返答は先送り……後々、文にて報せるとだけ言われ、ものの半刻足らずで即日追い出されたとのことです」

所々、え?…と、首を傾げたくなる様な言い回しを交えつつ、法衣の青年は次々に羊皮紙の束を捲りあげていく。

「それとこれも一応…。………一見、城の様子は何も変わっていない様ですが………あの鬱陶しいサラマンダーとかいう鳥と、兵士の数が……以前の訪問時よりも明らかに増えているとのことですってさ。怪しい行商人の出入りも頻繁だそうで………あー臭いね。あの国、とっても臭い…」

…と、嘲笑にも似た笑みを浮かべる青年が、ペラペラと個人的な感想を吐いていれば………彼の言葉を遮る様に、真正面からその声は響き渡った。








「―――執務管長ダリル。私語は慎みなさい」







鶴の一声と呼ぶに相応しいそれは、凛としていて、それでいて威厳のある………耳にした者を振り向かせる様な、そんな力強い声だった。

勿論、法衣の青年…執務管長であるダリルも例外ではなく。
普段なら人の話を聞かない彼は、意地の悪い笑みはそのままだったが、「はーいはい」と素直に頷いてすぐさま口を閉ざした。


そして姿勢を正し、羊皮紙の文面から視線を外して…ダリルは改めて、凄まじい力を空気で醸し出すその声の主を、見上げた。







やる気が無さそうに開かれた彼の半目の視線の先には……この広間から孤立する様に存在する、絨毯が敷かれた短い階段。
そしてその高すぎず低すぎない少ない段差を上った先で威風堂々と構えるのは、美しい装飾が施された…しかし、多くの傷や血に似た染みが刻まれた年期の入った椅子が一つ。
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