空悟~大切な君~
侍が俺を気遣うように声をかけてくる。俺は涙を無理矢理拭い、空悟の手を離し、一度だけ空悟の頭を撫でて立ち上がった。そして、その後は一度も空悟の顔を見なかった。見ると、もうあの世に行けない気がしたから。
俺は侍の前に立った。
「もう時間だろ?」
「もういいのでござるか?」
「ああ。これ以上いると、行けなくなる」
「分かった…」
侍が俺の額を指でポンと触れた時、一瞬何が起こったかは分からなかったがすぐに理解した。
俺の背後には俺の肉体が倒れていて、俺は精神だけの身体になっていた。
< 127 / 136 >

この作品をシェア

pagetop