白い吐息
「どうかなさいました?」
優しく声をかけてくれる受付のお姉さん。
「いえ、ありがとうございます」
琴は一礼してエレベーターへと急いだ。
誰も居ないエレベーターの中。
7階の文字が点灯している。
琴の腕の中では院内で購入した一番安い花束が健気に息をしていた。
「恐くない…」
エレベーターの中の鏡に向かって、自分に言い聞かせる琴。
その目は、いつもより鋭く光っていた。
真人の為だもん…
7階に到着した琴は、ドアの閉められた病室の前に立っていた。
…705 森下宏樹
琴はいつものようにこめかみをノックする。
そしてその手で目の前のドアをノックした。
「どーぞ」
軽い口調で琴の嫌いな声が返ってくる。
覚悟を決めた琴は片手でゆっくりドアをスライドさせた。
「失礼します」
「……」
リクライニングベッドに起こされた状態で座らせられていた森下は琴の姿に少し驚いたようだった。
「学校の代表として見舞いに上がりました」
ドアが自然に閉まると、琴は深々とお辞儀をした。
「…学校の代表?あなたがですか?」
クスクスと笑う森下。
その姿は少々悲惨なものであった。