白い吐息
甘い香りのする関口先生のハンカチで目頭を押さえ、琴は廊下を歩いていた。
窓の外からサッカー部のホイッスルの音が聞こえる。
鼻をすする琴。
関口先生は琴が赴任してきたときから何かと世話を焼いてくれる。
大学を卒業して一人暮らしを始めたばかりの琴だったので彼女も関口先生を母親の代わりのように思い、何でも相談してきた。
だけど、あの話をするのは初めてだった。
琴にとっても思い出したくない記憶だったから。
もし、突然愛する人が死んでしまったら?
もし、それが想いを告げる前だったら?
夢であってほしいと願うしかなかった。
琴は5年間、願い続けていた。
白居先生は生きている…
と。
「あっ…!長谷川先生!」
生物室の前で男子生徒が手を振っている。
「…!」
白居真人!
そこにいたのは2-Bの白居真人だった。
「良かった。もう大丈夫なんですね」
「えっあっあぁ…大丈夫大丈夫」
思わず動揺してしまう琴だった。