白い吐息
教師を好きになったこと
「…と言う訳で、明日から試験休みです」
2-Bの教卓の前に立つ琴はいつもよりハツラツとしていた。
理由は本日をもって担任代行が終わるからだ。
「次の登校日は1週間後の終業式だけど、気を抜かないで勉学に励んでください」
「はーい!」
戸部がひとり元気に返事をした。
その後ろで真人がクスクス笑う。
試験期間中、琴は真人と2人きりで会うことはなかった。
教室で会うことが気まずくなるのが嫌で、琴は敢えて距離を置いていた。
真人も真人で、個人的に琴に声をかけることもなかった。
「先生?」
「何ですか?」
真面目そうな女子生徒の問い掛けに答える琴。
「…森下先生がケガした理由が、誰かに突き落とされたって本当ですか?」
「それは…」
不意の質問に戸惑う琴。
教室はシーンと静まりかえる。
「…本当なの?」
数秒後、戸部が空気を切り裂いて琴に尋ねた。
「そっ…そんなこと、ありません。森下先生は階段につまずいただけです」
琴は戸部の目だけを見て返した。
「階段って何段あるんですか?」
さっき質問してきた女子が立ち上がる。
その顔は真剣だった。
「…詳しくは…聞いてないから」
琴は出席簿に目を落としていた。
「つまずいただけで、あばら骨を骨折するなんておかしい…」