白い吐息
その日の夜―
深夜1時をまわった頃、浅い眠りについていた琴はドアをドンドンと叩く音で目が覚めた。
何?!
激しくドアを叩く音。
不審者?
恐いと思いながらも、ベッドを下り、そろりそろりと玄関に向かう琴。
本来なら金属バット片手にといきたい所だが、独り暮らしの女性の部屋にそんなものはない。
代わりに、直ぐ通報出来るように携帯を握り締めていた。
「…どちらさん?」
ゴクリと唾を飲み、小さな声で尋ねる。
すると、ドアを叩くのがおさまった。
それを幸いに、琴がドアへ近寄る。
覗き穴を見ようとした、その時だった…
「助けて…」
ドアの向こうから擦れた声。
聞き覚えのある声だった。
耳を疑う琴。
「助けて…琴子…」
琴は何の血迷いもなく鍵を開け、ドアを押した。
「…まっ…真人?」
琴の目の前に現われたのは紛れもなく、その人物。
大きな荷物を抱えて座り込む、白居真人だった。