白い吐息
琴は呆気に取られて愕然とした。

「おっ…お父さんは?」

「父さんは家にはいないんだ」

「いない?」

「仕事が忙しくて、いつもホテルに泊まってる…」

「そうなの…」

わずかに悲しそうな目をした彼を、琴は見逃さなかった。

困ったなぁ…

いきなり訪ねてきたことについて、理由を聞くべきか、琴は悩んだ。


『助けて…』

彼はそう言っていたのだから。


「あっ…あの、真人」

正座をして真人の瞳を見つめる琴。

「何?」

真人は顔を上げた。

「どうして急に訪ねてきたの?」

琴の声が震える。

真人は黙って、またうつむいた。

「べっ、別に急に訪ねてきたらダメとか言ってるんじゃないんだよ!…何か困ってることとか、理由があるんじゃないかと思って!」

焦りを隠せない琴は身振り手振りで説明する。
おかげで、気になっていたことがやっと言えた。

でも、彼の返事は別の意味で重いものだった。



「琴子が好きだから…」



心臓が弾ける
こんなときなのに…


「それが理由じゃダメ?」

目を見開いて真っ赤になる琴に、下を向いたまま彼は言った。


「…ダメ…じゃない…」

思わず本音が零れる。

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