白い吐息
「先生といられるのに」
琴の動きが止まった。
「白居くん」
アヒルのように口を尖らせる琴。
「ん?」
爽やか笑顔の真人。
「からかってる?」
「何で?」
「…いいや。新米教師は生徒からからかわれるものだもんね」
琴はため息混じりに話しながら窓を開けた。
冷たい空気が生物室のホコリ臭さを溶かす。
「気持ちいい」
窓枠にもたれかかって目をつぶる琴。
「…ってないよ」
温かい何かが琴の目蓋に触れる。
「からかってない」
「…!」
驚く琴。
目を開けても視界は真っ暗だった。
「白居くん…?」
両手で琴の視界をさえぎっていた真人は、その腕をゆっくり下におろし、小さく震える琴の肩を抱き締めた。
「先生…」
「えっ!?…」
転回についていけない琴は訳が解らなくなって、慌て振り返ろうとしたが、背中に真人の胸がピタッとくっついていて全く動けなかった。
琴は体温が上昇している自分に気付き、顔を真っ赤にしている。
そして、真人の心臓の音を背中で感じていた。
「一目惚れって信じる?」
「はぁ…ぇい?」