白い吐息
声が裏返って何を言ってるか分からない琴の発言に真人はクスクス笑った。
そして腕の力を緩めた。
「先生、可愛いね」
そっと離れる真人。
解放された琴だったが、まだ窓の方を向いていた。
「もう窓、閉めてもいいんじゃない?風邪引いちゃうよ」
少しづつ遠くなる真人のあっけらかんとした声。
それでも琴は窓を開けたまま、勿論振り返りもしなかった。
席に戻り、鞄から紙を取り出す真人。
彼はそれを教卓に置いた。
「5人からは部活だって知ってた?」
琴に話し掛ける真人。
しかし彼女からの返事はなかった。
「毎日活動してたんだね。今日まで存在も知らなかったや」
もはや真人の独り言状態になっている。
「明日からヨロシクね先生」
バタンと閉まったドアの音にビックリして琴は振り向いた。
出ていってしまったのか、真人の姿はなかった。
風に揺れる教卓の上の紙切れ。
琴は慌てて窓を閉め、その紙切れを手にした。
「入部届…」
呟く琴。
外国語研究部
白居真人
そのデカデカと勢いのいい文字を見て、琴はまた背中に温かみを感じた。
両手で顔を包む琴。
「冗談…よね」
自分に言い聞かせるように言った。