白い吐息

「ちゃんと教えてやんなさい」

「はい…」

琴は苦笑いして席を立った。














『親父さんって、どんな人?』

『普通の人です』

『普通?』

『勉強しろってうるさいけど』

『そりゃ、どこの家庭でも同じだろうな』

『同じとは思えない』

『何で?』

『僕に会社を継がせたいみたい。だから…』

『もっと勉強しろってか?』

『…ぅん』

『英才教育か…』

『勉強のことしか会話しないよ』

『母親は?』

『母さんも一緒。父さんには逆らわないんだ』

『それは辛いな』

『もう慣れたよ』

『慣れるなよ』

『でも、僕には何もできないから』

『…将来の夢とか無いのか?』

『将来は決まってる…だから夢見ても意味ないんだ』

『大手貿易企業、白居グループの会長か…』

『うちのこと、詳しいんだね』

『…まぁね』



本当は、あなたが座りたかった場所だった?









「最近の変な夢、あなたが原因ですか?」

墓地の中心に真人がたたずんでいた。

白居家の墓と掘られたその場所に花をそなえる真人。
冷たい風が薄いシャツ1枚の真人の身体を刺す。
真人はかがんで目をつぶった。

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