白い吐息
当たり前のことだが、夢がリアル過ぎて琴には不思議に思えた。
墓前に手を合わせる。
少しだけ涙がまつ毛ににじんだ。
「もう泣かないって決めたのに、先生が夢見せるからサービスで出ちゃったじゃん」
目頭にコートの裾をあてる琴。
「黒いコートだからマスカラついてもバレないよね」
笑顔で顔を上げる。
「…先生、私ね報告があるんだよ。……実はね、好きな人が出来たの…。私…今とっても…幸せだよ…」
途切れ途切れになる言葉。
「…だから…もう…」
ホントにサヨナラだね…
言葉に出来なくて、琴は強く心で語り掛けた。
大好きだった…
本当に大好きだった…
言っておけばよかったと毎日後悔した…
でも
もう振り返らないよ…
私は真人と幸せになるから…
そう、先生が巡り合わせてくれたんだね……
ありがとう…
「バイバイ」
胸元で小さく手を振って琴は走りだした。
流さないはずの涙が溢れて風に残る雫。
急に込み上げた感情は押さえられず産声に似た声になる。
そうだ
私は生まれ変わるんだ…
走りながら、その時の琴は新しい一歩を踏み出したつもりでいた。