白い吐息

『お嫁さんは、あの生徒さん?』

『勿論』

『楽しそうだね』

『幸せだろうな…』

『叶うといいね』

『ありがとう』








ありがとう…




そんなこと言われる資格なんて…
もうない…






もう
奪えない…











生物室の扉を琴はゆっくりと開けた。

窓からオレンジの夕日が差し込んで、それはとてもキレイだった。
そんな夕日の中にたたずむ影。
窓際に立っていた真人がドアの音に気付いて振り向いた。
影で表情はあまり見えない。

「久しぶり」

琴は取り敢えずそう言った。

何も言わず、頭を下げる真人に近寄る琴。

「来てくれてありがとう」

琴は戸部に頼んで、真人を生物室に呼んでいた。

「別に…部員…だし」

久々に聞く真人の声に琴は涙をこらえた。

「そっか…。でも、1週間もサボったね」

「他の奴だって、幽霊部員だろ?オレが居なくたって変わらないじゃん」

しゅんとなる琴。
真人と目が合わせられなかった。

「電話、どうして無視したの?」

「忙しかったから…」

「メールも同じ?」

「ああ」

「…ずっと、待ってたんだよ」

琴も窓際にやってきて、真人と少し離れた場所に寄り掛かった。

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