白い吐息
『じゃあ、疲れるまで勉強する必要はないってことだ』
『そーわいってない。学習好きな人間だから、進路まで学業成績で決めるようになったんだな』
『面倒臭いね…』
『でも、いつかひょっこり役立つ日が来るかもしれないぞ』
『因数分解や方程式が?』
『いつかな…』
先生…
悲しみを消す方程式を私は知りたかった…
どんなに解いても
こればかりは答えが出ないの…
「おはようございます」
琴は次の日もいつもと変わらない様子で隣の席の森下に挨拶した。
「おはようございます」
森下も特に変わった様子はない。
むしろ、以前より話す機会が少なくなった。
何もない…
それが一番平和なんだと、琴はひとり思っていた。
でも、平和はいつも突然崩れる。
「長谷川先生」
可愛らしい声。
語尾にハートマークでもあるかのようにキュンと高く上がる。
そんな話し方をする教師は、この学校で只一人。
「おはようございます。田口先生」
「…あの…今更なんですけど、昨日の保健室での話内緒にしてもらえますか」
「…はぃ」
あまり蒸し返して欲しくない琴はサラリと流す。