白い吐息
嘘……
「昔、あの人から聞いたことがある。好きな生徒がいるってこと」
真人は切なそうに語り始めた。
「でも、名前を聞いた訳じゃないんでしょ?」
「この間、森下から聞いたんだ」
森下先生に…!
「森下は白居先生の…」
「従兄弟なんでしょ」
琴は小さい声で呟いた。
真人は…
それを聞いたんだ…
私の名前を…
「知ってたんだ?」
「最近…知ったのよ」
琴は全身の力が抜けるようだった。
「白居くんは…白居くんは、その名前を聞いて…あなたと同じ名前の人を好きだった私に幻滅したんだね……戸部くんは他に理由があるって言ってたけど…やっぱり、そうなんだね…」
琴は真人に背を向けて夕日の見えるベッドにゆっくり座った。
「…そう思ってるなら、それでいい」
真人も背を向けてベッドに座る。
背中同士が悲しく見つめ合っていた。
「だって…」
琴は言葉につまって溢れる想いを押さえた。
「長谷川先生が好きになったのは、きっとオレじゃない。オレの中にいた白居先生なんだ」
琴はハッとして手を震わせた。
「そして、長谷川先生を好きになったのもオレじゃなくて、…オレの中にいた白居先生なんだよ…きっと」