白い吐息
「ここで酒飲んで、お前に怒られたっけ…」
先生は遠くを見ながら、あの日を思い出してるようだった。
「そうそう。しかも昼間から」
「いい思い出だな」
「片付けないでよ」
喋りながら微笑みかけてくる先生に、ドキドキしちゃう。
聞こえてるかな?
聞こえてた方がいいのかな?
「で、何で夏休みに帰りたいんだよ?寒いからか?」
「も〜。そんな理由じゃないもん」
「受験から逃げたいからか?」
「違いますー」
そんな単純なことじゃないよ。
先生はやっぱり、私の気持ちには気付いてないんだ。
気付かれて、今が壊れるのも嫌だけどさ…。
「あの夏をもう一度…。そんなにオレと離れるのが嫌か」
「へっ?」
「もてると困るねぇ〜」
……つか、冗談キツいんですけど。
「高校卒業して…私、ちゃんとした大人になれるかな?」
「ちゃんとした大人になんてならなくていいよ」
先生はスゴく遠くの空を見ながら言った。
「琴子は琴子のままで」
ドラマみたいで、うっとりしてしまった。
頬杖をつく先生の顔が優しくて、どこか悲しくて、私は息がつまりそうになる。
「私らしく…か」