白い吐息
琴の目はあの日と同じ目をしていた。
白居先生の死を受け入れられず、人形のように過ごしたあの日と…。













「真人…」

時間になっても起きてこない息子を心配して、母は部屋のドアをノックした。

返事はない。

母はドアノブに手を掛けドアを押す。


「真人……」


そこに真人の姿はなかった。

静かにドアを閉め、母は頭を抱えた。


「いい加減、ちゃんと話してくれない?」

「皆人」

母の背後から話し掛ける皆人。

「兄貴に気を遣う理由も、父さんが家に帰ってこれない理由も」

「…それは」

「オレんちのこと、かぎ回ってる奴がいてウザイんだよね」

「そっ…そうなの?」

母はおどおどと聞き返した。

「兄貴の友達。兄貴の自殺未遂の真相が知りたいみたいだよ」

「……」

「オレも知りたいんだけどね」

「皆人…」

「原因は父さんなんだろ?」

「……」

「風の噂で聞いたんだ。父さん、前の奥さんの…」

「それ以上言わないで!」

母が言葉を断ち切るように大声を出した。

「…全部…全部、私が悪いのよ…」

母は息子を前に泣きながらへなへなと廊下に座り込んだ。

「あんたもバカだよな」

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