白い吐息
「あぁ、あの時の…」
「ご存知でしたか?」
「はい。私がこの高校に勤めて8年になりますから」
そう言いながら、主事員は腰を叩いた。
「科学室、見せてもらってもいいですか?」
琴は主事員と一緒に科学室の前まで来た。
「授業はないみたいですね。鍵、後で主事室に戻して下さい」
「ありがとうございます。無理を言ってすいません」
琴は頭を下げた。
科学室のドアに鍵を差し込む。
懐かしい…
鍵をひねってドアを開けた。
ツーンとした香り、殺風景な雰囲気。
どこにでもある科学室と同じだ。
でも、琴には全てが懐かしく愛しい世界だった。
「…変わってない」
琴はストーブの前に走り寄る。
懐かしい…
たったの5年なのに…
「…もう、5年かな?」
「だな」
その声に琴が振り返った。
真人…
「そんなに経ったんだな」
違う…
この声…
「白居先生…」
琴の目の前にいたのは白衣を着た真人の姿だった。
「準備室に置いてあったから着てみたけど…この身体じゃしっくりこないな」
真人の姿をした白居先生はそう言って悲しげに微笑んだ。