白い吐息
白居先生は頬杖をつき、琴を見つめた。

「…違…違うよ」


「じゃあ、こっちを向いてよ琴子…」


琴はためらいながら、ゆっくりと振り返えった。



「琴子…」


せんせい…



悲しげな瞳。
琴は胸が高鳴った。

「…」

涙が零れる。



「琴子…」



「先生…」

懐かしい声に琴は高校時代に戻ったような錯覚を起こした。


「ずっと好きでいてくれて、ありがとう」

白居先生は立ち上がるとストーブの方へ歩きだす。


白居先生…


真人じゃない…



この人は…白居先生



そう、
姿も白居先生だ…


琴の目にはそう見えた。
5年前と同じとろんとした人形のような目は幻を映し出す。


「先生…淋しかったの…」

「オレも淋しかった」

「先生…ひとりは嫌なの…」

「オレも琴子と一緒じゃなきゃ嫌だよ」


「先生…先生の所に行きたい」


だって

真人は白居先生だったんだから


私は最初から白居先生が好きだったんだから



「琴子…」

白居先生は琴の身体を優しく抱き締めた。


「ずっと…ずっと琴子が好きだった。抱き締めたかった…」

琴は白居先生の背中に手をまわす。

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