白い吐息
ついつい大きな声を上げてしまった琴。
「長谷川くん…どうかしたかね?」
校長が尋ねる。
「あっ…いえ!何でもありません!」
琴が会釈すると、校長は話を続けた。
森下は琴を見て、クスクスと笑っていた。
琴は森下の後頭部をにらんだ。
そして、つつかれた頬に手を添える。
そこは昨日真人に誓いのキスをされた場所だった。
数分して会議が終わる。
琴は次の時間に授業が入っていなかったため、プリントの整理を始めた。
「長谷川先生」
隣の席から森下が呼ぶ。
「なんですか…?」
「そんなに警戒しないで下さいよ」
森下はいつもの爽やかスマイルだが、琴の顔はひきつり笑いだった。
「うちのクラスの白居、先生の部でお世話になってるみたいですね」
「はっはぁ…」
「あまり彼に関わらない方がいいですよ」
「えっ?…何でですか?」
「彼の家、色々あってね。担任としての意見です」
そうサラリと言うと、森下は出席簿を持って職員室を出ていった。
「色々…?」
ポツリと呟く琴。
瞬間的に戸部の話が脳裏をよぎる。
自殺未遂に関連することだろうか?
担任の森下なら知っている可能性が高い。
しかし琴はそのことに関して追求するのは避けた。
森下の言葉より、真人の想いを信じていたから。