白い吐息
「マコトとか読む奴、多いもんな。シンジンって読んだ奴もいたよな」
真人の友人らしいその生徒はよく喋った。
しかし琴の耳にはまるで入っていなかった。
ただズキッとした鈍い痛みとドキッとした新鮮な痛みが彼女の胸で疼いていた。
「ありがとう先生」
"ありがとう琴子"
真人の言葉が琴を切なさと共に5年前へと導いた。
"先生…"
"白居先生!"
先生!
ダメだよ先生!
ひとりにしないでよ…
ガタンッ…
「先生!」
生徒が叫んだ。
「だっ…誰か隣のクラスの担当呼んでこい!」
「わっ…わかった…」
教卓の隣に倒れた琴。
手にはぎっしりと出席簿が握られていた。
閉じた瞳から、うっすら涙がにじみ出ている。
そして小さく呟いていた。
「白居…先生…」