なんで、みんな誰かの一番になれないんだろ?
「じゃあ、俺行くわ。じゃないと俺、もう一人の王子様に首締められそうだから。」
そう言って俺が指差した先には、こちらを怖い顔して睨んでいる遠哉の姿。
「いいのに、あんなバカ気にしなくて。」
いつもみたいに面倒くさそうに言う亜子の声が、なぜか今日は弱々しくて
こいつらの関係も、少しずつ変わってきているのだと感じた。
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「せーんせ。」
救護室で後片付けをしていた保険医に、俺は甘えた声で話かける。
「あら、松永くん!どうしたの?」
女の保険医は、俺の顔を見てパッと顔が明るくなる。
女はみんな単純だ。でもまあ、こいつらがこんな風に単純なおかげで、俺は助かっているんだけど。
こいつらに対しては、顔色を伺って悩んだりなんてことはない。
俺を悩ませているのは、夢乃、お前だけだ。
「持田、知りません?さっきここに来たはずなんですけど。」
俺の言葉に、あからさまにがっかりしたように肩を落とす保険医。
そして
「持田さんなら朝から体調悪かったみたいで、今保健室で寝てもらってるわ。薬飲んで眠ってしまってるかもしれないから、くれぐれもそっとしといてあげてね。」
どこか義務的にそう返してくる。
「そっか。せんせ、ありがとう。」
俺がいつもの王子スマイルで保険医に笑顔を返すと、保険医はまた顔を赤らめる。
ほんと単純。
亜子。
やっぱ俺には、心からの笑顔なんて難しいみたい。