なんで、みんな誰かの一番になれないんだろ?
「トーヤ。痛いよ…」
俺は強く亜子の手を掴んでしまったらしく、慌てて掴んだ手を離した。
「ごめん…」
「いいけど。」
言葉とは裏腹に、怪訝な顔をする亜子。
また、俺達の間に沈黙が流れる。
まるで世界が動きを全てとめたみたいに、静かで寂しく、俺を不安にさせた。
言葉というものは、なんでこんなに使いづらいんだろう。思っていることの、100分の1も表現できない。
…いや。俺がただ、不器用なだけか。
でも伝えなきゃ、伝わらない。どんな下手くそな言葉でも。
「亜子。」
静寂を破るように俺は、再び彼女の名前を呼ぶ。
「明後日の本祭最終日。2人で回ろう。」
「なんで?今年もみんなで回ればいいじゃない。」
「いや、今年は亜子と2人で回りたいんだ。亜子の時間を、俺にくれない…?」
断られるのを覚悟で、言った。10分の1でも、100分の1でも、俺の気持ちが伝わればいい。