なんで、みんな誰かの一番になれないんだろ?
「ちょっ…バカトーヤ!!周りが見てるじゃない」
亜子は周りの目を気にして焦っているけど、
俺は張り詰めていたものが一気に途切れ、そんなこと考えている余裕なんてなかった。
だから、さらに抱きしめる手を強くする。
離さないように。
強く、守るように。
「来てくれて、嬉しかった……」
ホッとし過ぎて、つい本音が零れる。
今なら、全てを話してしまいそうになる…
「今日の試合、絶対亜子に見て欲しかった。」
「亜子に、かっこいいとこ見せたかった。」
お前に会ったら、やっぱダメだ。
「なぁ、亜子。」
視線を、強くする。
「…今日の俺さ、琢斗に追いつけてたかな――」
今日だけでも、お前の目には俺が写ってた…?
―――――――――
俺のその言葉に、
亜子は大きく目を見開き、息をのんだ。
多分、色々思うことはあったんだろうけど
亜子は言葉を発しようとはしなかった。
でも、
“何も言わない"
ということが、彼女の気持ち全てを伝えているような気がして
もう俺は、気づかないふりなんてできないのだと悟った。