サンシャイン!
はじまりのうた

生きている限り、誰かが死んでいくのは必ず一度は見るものだ。

それは普通のこと。
私の目の前に、校舎の屋上から飛び降りてきた男子生徒のぐちゃぐちゃになった血みどろの死体も、その内の一つ。

彼も、必ずいつかは死ぬはずだった。
それが、偶然に、必然に、私の目の前に落ちてきて、私の制服だとか、顔だとかを真っ赤に染めているだけのこと。

しかし身体は嘘を吐かない。
私の冷めた思考回路とは真逆に、膝は笑っていた。心臓は五月蝿く鼓動し、耳鳴りがする。頬を伝う熱い雫に、理解した。
(恐い……)
こんな無惨な死体は見たくなかった。
出来れば、一生。


「巳丘……?」
後ろで声がする。巳丘、は私の名前だ、きっと。

落ちてきた拍子に私の足元まで飛んできた名札には、“山越”と書いてあった。クラスメイトだ、彼は。

ゆっくり、声が聞こえてきた方に目をやる。なんだ、こいつもクラスメイトの、
「須山くん」
「……大丈夫?」
情けなくも泣いてしまっている私とは逆に、彼は無表情のような、少しだけ微笑みを混ぜたような顔で聞いてきた。

大丈夫なわけない。
頬に付着した血液が固まってパリパリと張り付いた感じがなんとも気持ち悪い。
「どうしよう、私……」
何をすれば良いか分からない。

既に辺りは騒然としていて、山越くんの周りには人だかりができている。教師も慌てて飛んできて、遠くでは救急車のサイレンが聞こえてくる。

私と須山くんはここに居ないみたいに輪からはぐれていた。
「……っ!」
涙は止まったのに、声が出ない。
それは、
「恐かっただろ、もう、大丈夫だから」
と言って血塗れの私を抱き締める須山くんの所為だと私は思う。



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