ALTERNATIVE Ver.0.5
大型ショッピングモールに黒い喪服を着た集団。

道一杯の黒い波をかきわけるように進む、脂汗を流した作業服の男。


黒い列をなしながら進む人垣の隙間隙間に見えるのは、

綺麗だがどこか寂しげな服屋の女性店員。

車輪の大きな双子のベビーカー。

ワゴン型の露天サンダル専門店には色とりどりのゴム製のスリッパが並ぶ。

その横には300円均一の店。

出来たてのシュークリームを売る店から漂うシナモンの匂い。

そして飲食店街までたどりついた。

男は流れる脂汗を袖でぬぐいながら沢山の白く丸テーブルと白いプラスチックの椅子の人がごったがえす飲食店街にぐるぐると目をやる。

男は焦り混じりにつぶやいた。

「入れるところの近くに

出すとこ作れよな……」

飲食店街だというのにトイレがない。

あせる作業服姿の男は、いよいよ小走りに走り出した。


流れる人混みの景色、笑い声、子供をしかる親の声。

男はキョロキョロとし、そして立ちつくす。

立ち止まったまま270度ぐるりと周りを見渡す。

非常口、エレベーター、エスカレーターの表示プレート、あとは、よくわからない文字や、記号。記号。記号……とにかくトイレがない。

通路をどんどん進み飲食店街のゾーンを越えた。

すると果てしなく長い連絡通路に出た。


気が遠くなるほどの連絡通路の長さに男は「長い」と舌打ちして振り返り、しかたなしにさきほどいた安い飲食店街の先にある店舗型の店がひしめくゾーンまで引き返した。

そこで真っ先に目に付いた店の敷地の中へと入ると「お一人様でしょうか?」と眉毛の濃い男の店員が問う。

その後ろにレジ、そしてその先の通路の奥には、おそらくトイレ。

トイレ。

トイレだ。やった。

男は眉毛の濃い店員に「トイレを借ります」と最初のトだけ正確に告げながら、足早にレジの前を通過し、奥の通路へと向かった。

ザッ ザッ ザッ






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