++外伝/偉大な緑の協力者~『選択』~++
 青磁色の瞳が、優しく微笑みかける。反論する様にではなく、問いかけるように話しかけることで、感情を操作している。

 レイに投与したのは、あくまでも“それほどでもない量”大きな危険が出ないのであって、薬の持つもう一つの特性は十分出る量だとザザは分かっていた。

「まあ、若いからファッション的な何か? かもしれないけど……」

 だからこそ、言葉と態度で違う答えを引き出しこちらに向かせる。

「俺に心配とか言われてもだけど、まぁ……ねぇ」

 とてもわざとらしい言葉をその後も幾つかザザは言い続けた。
 当たり前だが“心配”など一つもしている訳は無いのだが、傾き始めるレイの姿を確かめながら一つ一つ言葉を選ぶ。

 暫くは反論らしきものをしていたが、やがてレイは静かになってゆく。
 全ての感情と想像は混ざり合い、心と頭の中が繋がらなくなり混濁する。
 
 何かが少しずつ音も無く崩されてゆく様な感覚に陥る。それでも何とか建っている塔の様に……

 レイはザザの瞳を薄っすら涙を溜めたような瞳で見た後、突然下を向いたかと思ったら、這うように足を括りつけられた機械に向かいもたれる様に座りなおした。

 そして、何処か遠くを見つめて何かを考えている。いや今は何も考えられていないのかもしれない。

――此処まで来たらいいだろう……これ以上の投与も今日は必要無さそうだね

 そして“君は可哀想な人だ”という瞳をザザはレイ向け、少しの間言葉を止め数歩離れた場所から見つめていた。
 
 明日中に他の拠点に回収してから、人の意志を変えることは造作も無い事だとレイは知っていた。
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