冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「ふぅんそんな事考えていた訳か」
口の端をあげ、勝ち誇ったかのようににやりと笑う紘夜様を前に、
実織様は怯えた子猫のように、小さくなったように見えた。
「で、でも…花……いいよ?綺麗だし、和むよ?」
実織様はビクビクと小さな声で話し、紘夜様を見上げる。
大型犬の前で丸くなった子猫のようで、可愛らしくて、
私は笑みが零れそうになるのを必死にこらえた。
「まだ言うか。さっさと部屋に戻ってマナーの練習でもしてろ」
そう言って紘夜様は部屋に戻ろうと、扉を開けると、
「じゃ、じゃあこれだけでも。
気持ち落ち着くよ。そんなにイラついてたら、
体に……良くないよ…」
紘夜様に花束を無理矢理渡し、
実織様は廊下を走り出した。