冷たい雨に咲く紅い花【前篇】

「…しょうがねぇな、好きにしろ」

そう言って、紘夜は建物の壁伝いに身を隠しながら、様子を伺う。


私は離されない様に、紘夜のジャケットにしがみついて歩いた。



すると、

「ーったく、歩きにくい!」

紘夜が私を一喝。


「だ、だって…」

こわ、
こわい……



バサッ

紘夜が黒いジャケットを脱ぎ、
私に放り投げた。



「それでも着てろ」


その時になって、

私はこの11月の寒空に、撫子色の薄いドレス一枚だったことを思い出した。



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