冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
そんな私の様子に気付いた素振りも見せず、
紘夜は辺りに視線を走らせていた。
だから私は、
紘夜の匂いのするジャケットを、
ぎゅっ
と、抱きしめた。
『大丈夫だ、実織。俺がいる』
その言葉が、声が、
耳から、心から、
離れない。
ドキドキしながらも、
顔を上げると、
紘夜が、後ろ腰に差していた銃を取り出す。
そして、回転式の弾が入っているところを確認する仕草をした。
その流れるように馴れた仕草に、
目を奪われた。
こんな時なのに、
紘夜から目がそらせない。