冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「実織、ここで少しだけ待ってろ」
紘夜が、警戒した姿勢のまま告げる。
「やっ、置いてかないでっ」
「大丈夫だ、すぐ戻る。この様子なら、狙撃に失敗してここにはもういない」
「だったら、行かなくてもいいじゃない!」
「狙撃したヤツの痕跡を探してくる。薬莢か何かが残ってるはずだ。
それに、一応屋敷の周辺を見回ってくる。
恐がりのヤツがここには一人いるからな」
そう言って、紘夜はイジワルな笑みを私に向けた。
こ、恐がりって、
私のコト!?
むー、と私がふくれると、
「そのジャケットにしがみついて待っとけ」
そう言い残し、紘夜は軽やかな身のこなしで樹々の中に消えて行った。