冷たい雨に咲く紅い花【前篇】

あっという間の出来事に、
私は格子扉にしがみついたまま、
動けずにいた。



いつの間にか、
紘夜の姿は消え、



煙草の甘い香りだけが、

残った。







「実織様」

懐かしい声がして、振り返る。


そこには、
静音さんの姿。


「し、静音さんっ…」


思わず駆け寄ろうとすると、

静かで感情のない静音さんの表情が、
私の足を止めた。


「静音さん?」



< 169 / 413 >

この作品をシェア

pagetop