冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「紘夜ーー!」
力一杯、
紘夜の腕の中でもがいたが、力強い腕はビクともしなくて、
でも私の大声に、
やっと、
紘夜は私から少し離れた。
「うるさい、実織。なんだってんだ?」
紘夜がいつもの荒っぽい口調で、言う。
でも、いつもと違う。
その言葉は、
私の耳元で囁くから。
ーーが、
ここでのまれちゃダメ!私!
「なに、じゃないでしょ!」
私は、紘夜の囁く低い声にクラクラしながらも、なんとか自分の意識を保つ。
そして、
少し動くようになった自分の手を動かして、掴む。
私の制服の中、
シャツの裾から入ろうとする、紘夜のその掌を。