冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
思った、瞬間ー、
グイッ、と、
力強い腕が、私の身体を引き上げた。
「ーっかやろ!何やってんだ!!」
近くで、怒鳴る声がした。
あの男が、バルコニーの柵の内側から、私の身体を引き上げてくれた。
「ったく、怖さを知らないのが、一番怖いな」
私の耳元で呟く、低い声。
目の前には、男の広い胸。
襟元の釦が幾つか外れ、鎖骨が見える。
今、私がしがみついているのは、バルコニーの柵じゃない。
男の、
人の胸の中だと、気付くと、
一気に、気が抜けた。