冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「用は、それだけか? なら、もういいだろ。切るぞ」
『あぁ、それと、周りの連中がお前に縁談話を進めるだろうが、いつものような振る舞いで断る態度は改めろ。
愛想笑いの一つでもーー』
「それなら心配無用だ。今回は女を連れて出る」
『なに?ーー』
ガシャン、
驚いたような声を遮り、俺は受話器を乱暴に置いた。
その音に、自分が予想以上にイラついていたことが分かる。
いつものことだ。落ち着け。
そう、自分に言い聞かせる。
俺は机の上から黒い紙箱を手に取り、
中から黒い煙草を一本口にくわえると、
鈍色のライターで火を点けた。
ジジ、と燃え、紅く火がともる。
深く吸い込み、一つ、大きな溜め息とともに、煙が舞い上がった。
その煙を見つめ、だめだな、と、自嘲気味に笑いが零れる。
いつものこと、わかっている。
すべてーー。