冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「うわ、スゴイいいオトコ!」
私の腕を肘でつつきながら、世菜は小さな声で私に呟く。
うん…
いいオトコ。
長身で、端正な顔つき。
どこか優雅な雰囲気で、黒いコートを着こなしていた。
って、
「紘っ…!」
ばふっ、と
思わず大声で名を呼びそうになって、両手で口を押さえた。
紘夜ーー!!
心の中で、大絶叫。
なんで?
なんで、こんなところに!?
訳が分からず、ボー然としていると、
「そのココナッツかかってるのと、カスタードのやつ。
それから…ビターチョコレートのを2つずつ」
相変わらずのいい声で、
ケースの中のドーナツを指差しながら、紘夜は注文していく。