冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「聞いてる?」
立ち尽くす私の顔を、ケース越しに覗き込む紘夜。
「うっ、ひゃあ!」
ヘンな大声を出してしまい、またまた両手で口を塞ぐ。
し、しまった…
「大丈夫?ミオ」
心配そうな世菜の声に
「だっ、大丈夫、大丈夫」と慌てながらも答え、
冷たい店長の視線に、愛想笑い。
落ち着け、
落ち着け、私!
出来るだけ紘夜の方を見ないように、注文のドーナツを箱に丁寧に並べ、詰めていく。
代金を世菜が受け取り、精算。
私がドーナツの箱を紘夜に渡すと、
「今日は何時に終わる?」
低い声で囁くように私に告げる紘夜。
その声に、
ドクン、と鼓動が高鳴る。
ドーナツを渡す手が、震える。