冷たい雨に咲く紅い花【前篇】


「私の前で、やめてよ。緋(フェイ)」

凛とした声が、暗い路地裏に響き渡った。


その声に赤髪の男は少し反応して、
私から口を離した。


すぅーーッ

突然、取り入れた酸素と、
感触の残る気持ち悪さで、


「ーーごほっ、げほ、げほっ…」

むせ返る、呼吸。



苦しい、

気持ちが悪い、


吐き気と乱れた呼吸で、
涙があふれ、流れた。



今度は、

堪える事など、出来なかった。



「実っ…」

名を叫ぼうとして、
ためらう紘夜の声が届く。



紘夜を見る事も、


出来ない。



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