冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
コンコン、
洗面所のドアを軽くノックして、

「大丈夫?……君、
〝表(オモテ)〟の子だよね?なんかあった?
紘になんかされた?」

「……」


返事がない。

ガチャ、ガチャガチャ…
鍵がかかってる。


「……ちょっと、ごめんっ」

ガッ、ガン!

言い終わらないうちにドアを思いきり蹴破った。

この家の立て付けは熟知している。
ドアを蹴破る力加減は知っていた。



ザァーーッ

流れる水音、

そして、


何度も、
何度も、

タオルで口を拭う彼女。


そのタオルは、
血に染まっていた。

「ちょっ、ケガ、してるんじゃないか?」

オレは慌てて彼女の口からタオルを外そうとすると、


「やっ、汚い!汚いからーーっ!こんな、こんな口…いらない!」

突然叫ぶ彼女。


汚い?
こんな口いらない?


だから、タオルで力任せに拭い、唇を切ったーー
と?

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