冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「…だめだよ。見せて、」
「いやっ、」
タオルを外し、その口を見せる様に促すが、
彼女はかたくなだった。
「紘に、なんかされた?」
「ちがっ…、紘夜は悪くない。私…私…」
溢れる涙が頬を流れる。
唇から流れる血と混ざり合った紅い雫が、
滴り落ちる。
「大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて」
なだめる様に、
オレの着ていた白衣の襟元で、彼女の紅い雫を優しく拭う。
「…紘はもう大丈夫だから、君はもう帰った方がいい」
時計はすでに次の日を示していた。
こんな時間に血だらけの紘と何があったのかはわからないが、
〝表〟の女の子がこれ以上関わることではないはずだ。
「タクシー呼ぶから…あぁそれとも家の人に来てもらおうか?」
オレのどの提案にも質問にも、
彼女は首を横に振るばかり、
か弱そうに見えて、意外にかたくなでオレは少し驚いた。