冷たい雨に咲く紅い花【前篇】


「…織、実織……実織!」

その絞り出すように名を呼ぶ声に、

彼女は
ビクッと、
肩を震わせた。


かすれていても、
その聞き慣れた声にオレも驚いて振り返り、
声の方を見た。


動いてはいないが、
どうやら紘が目を覚ましたようだ。

「紘 !? お前、もう目が覚めたのか!?」

つうか、早ぇよ!
こんなことなら全身麻酔にすればよかったか。


「まだ寝てろ。体力落ちてんだから」

洗面所から大きな声で紘に伝えると、

「吉水、実織…俺んとこに連れてこい」

相変わらずの口調で紘が答える。


ったく、
年下のくせに相変わらず生意気な。

といいつつ、
いつも面倒見ちまってるオレもオレか……


「実織ちゃんって、君だよね?
紘が呼んでる、行こう」

そう、彼女の顔を覗き込む様に伝えるが、
動こうとしない彼女。

ふむ。。。

「なら、」

よっと、

オレは彼女をお姫様だっこして、
紘の所に連れて行った。



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