冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「ほら、お望みのお姫様だ」

紘が横になっているベッドのそばで彼女をおろすと、

「なに勝手に俺の実織を抱きかかえてんだよ、吉水」

重傷とは思えない目でオレを睨み、
口調もさっきよりしっかりしている、紘。

「勝手はどっちだ。いつも面倒ばかりかけやがって。連れてこいってお前が言ったんだろ」


てか、

ん?
今、〝俺の実織〟とか言ったか?

あの、紘が?



「実織、実織。ちゃんと顔みせろ」

紘の言葉にうつむき、首を横に降り続ける〝実織〟という名の女の子。

「見せないと、〝一生帰らせないぞ〟」


ぴく、

その紘の言葉に少し反応する彼女。


「…帰らなくても、いい。紘夜が、そばにいてくれるなら…」

うつむいたまま、タオルで顔を隠し彼女が答える。

「…でも、もう、嫌でしょ?…だって、あんな…」

「あぁ、目の前で好きな女が他の男にキスされたんだ。腹が立ってしょうがない」


あぁ…ふむ、
なるほど。そういうことか……


〝やっ、汚い!汚いからーーっ!こんな、こんな口…いらない!〟


彼女がそう叫んでいた意味が、
やっとわかった。




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