冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
ー準ー
†
「すぐ行くから、待ってろ!いいな!」
待ち続けた電話に、そう言い放ち、
俺はソファに置いたバイクのメットを掴み、
バンッ、
待ち続けた部屋のドアを思いきり開けた。
「きゃ、」
「おっと、悪い」
廊下に飛び出すと、
お茶の用意を持ったメイド姿の女性が、俺の胸元に飛び込んできた。
俺を招き入れてくれた、あの女性だった。
「いえ、こちらこそすみません…」
お茶を零さない様に体勢を整え、
女性は俺を見上げた。
「あの、何かございましたか?」
「俺の携帯に連絡がきた。…真影から」
「紘夜様から!? けれど、紘夜様は携帯電話をお持ちではないはずですが…」
「実織の携帯からだ」
実織からだと思って出ると、
予想外の、
馴染みがある、低い声だった。